英国における小学校建築に関する計画史的研究

 現代の小学校建築に存在するクラスルームと運動場の起源を、英国スコットランド、グラスゴーの南東約40kmにある工業村ニューラナークにつくられた性格形成新学院に求めることができる。
 1816年に開校したその学院では、後にクラスルームへと発展する空間がつくられた。また、地理や自然史や歌や踊りなど、それまでの大衆教育にはなかった新しい科目が教えられた。さらに、遊び場playgroundがつくられて、文字通り遊び場として使われるとともに、授業の一環として現代の体育に相当する軍事教練が行われた。この遊び場が現代の小学校建築における運動場へと発展したと考えられる。この学院は、ニューラナークの経営者であり社会主義者でもあったロバート・オーエン(1771-1851)によって、子どもたちの良好な性格の形成を目的として設立されたものである。
 学院で誕生したクラスルームや運動場についての考え方は、その後、サミュエル・ウィルダースピンやデビッド・ストウの教育論を経て、英国枢密院教育委員会(後の英国文部省)が作成した小学校建築のモデルプランに継承された。さらに、その考え方は、明治初期の我が国の小学校建築にも影響していると推定される。
  
左)当時の授業、中)当時の運動場、右)現在の様子(ユネスコ世界遺産に指定)


英国における住宅地デザイン・ガイドに関する研究

 英国には、「デザイン・ガイド」と呼ばれる都市デザインに関する冊子やパンフレットが存在する。それは歴史的な街区や建築物の保存に利用されるほか、新規の住宅地開発にも利用されている。
 その特徴は、第一に、建築物等の具体的な形態を図示した冊子として都市計画当局によって作成されていること、第二に、硬直的な都市計画プランに対して、機動性や柔軟性を有するものとして都市計画制度の中に位置付けられていること、第三に、景観規制に関わる項目だけではなく、密度や道路形状などの住環境の形成に関る項目も規制の対象となっていることである。
 近年では、街並みのデザインだけではなく、屋根の緑化やビオトープの設置など地球環境に配慮した内容のデザインガイドも出現している。


  
左)デザイン・ガイドが示す景観事例、中)デザイン・ガイドが示す街区事例、右)デザイン・ガイドを適用した住宅地

参考文献:Essex Planning Officers Association : The Essex Design Guide for Residential and Mixed Use Areas, Essex County Council and Essex Planning Officers Association, 1997